毎年春と秋、Elise FontaineとMika Hayashiはマプルバレー周辺の森に入り、ダグラスファーの枝先を採取する。これはアトリエが1987年の開設当初から続けている習慣で、「Cèdre du Pacifique」と「Vallée Verte」の両方に欠かせない原料を得るための作業だ。
採取のタイミングと場所 ¶
ダグラスファーの精油は、新芽が出た直後の春(四月下旬から五月上旬)と、樹脂が凝縮する秋(十月)の二回が採取に適している。マプルバレー周辺では、アトリエから車で二十分ほどの私有林の一角を、地主のBob Carterから許可を得て使わせてもらっている。採取するのは枝先の若い部分のみで、幹や太い枝には手を触れない。
水蒸気蒸留の工程 ¶
採取した枝先はその日のうちにアトリエに持ち帰り、二十四時間以内に蒸留する。アトリエには容量二十リットルの銅製蒸留器が一台あり、一回の蒸留で得られる精油は多くても八から十ミリリットル。収率は低いが、この量で十分だとEliseは言う。蒸留水(ハイドロゾル)も保存し、ルームスプレーの原料として使う。
香りの特徴と調香への使い方 ¶
マプルバレーのダグラスファー精油は、市販のものより緑っぽさが強く、松脂のような樹脂感が少ない。これは採取時期と枝先の若さによるものだとEliseは考えている。調香では、シダーウッドやベチバーと組み合わせてベースを作るのではなく、ミドルノートとして使うことが多い。緑の気配を香りの中間に置くことで、全体が軽くなる。
採取量の限界と生産本数への影響 ¶
一年間に採取できる量には上限があり、それが生産本数を制限する直接の理由のひとつになっている。「Cèdre du Pacifique」は一バッチ最大百二十本だが、ダグラスファー精油の在庫が尽きた年は八十本で止めたこともある。増産のために採取量を増やすことは考えていない。森への負荷を増やしたくないからだ。
ダグラスファーの精油は、マプルバレーという場所と切り離せない原料だ。同じ木でも、グラースで育ったものとは全く違う香りがする。その違いがアトリエの香りの個性になっている。